ダイジェスト(交流会・準備~交流会・終)
ダイジェスト(交流会・準備~交流会・終)
基本的に四季ヶ丘学園の体育祭は二日で構成されている。
一日目には新入生歓迎会を兼ねた『鬼ごっこ』。逃げる側が新入生で鬼側がそれ以外の生徒となり、制限時間内に逃げ切った者や一定以上の人数を捕まえると主催者側から褒美がもらえるというシステムだ。
ここで注目されるのは主催者が生徒会という部分。つまり生徒会から褒美がもらえるという意味になるので女子生徒達は期待に胸を膨らませている。男子は男子で生徒会なら褒美の内容に期待できると思っている。
また、景品ではなく褒美と称されることにも理由がある。
それは条件を満たした者の希望を可能な限り何でも叶えてくれるという所から『褒美』になったようだ。
昨年は新入生を一定以上捕まえた男子生徒が食堂の一年間無料権利を褒美として望んだ。客観的に見てこれは『景品』だろう。過去には制限時間内で逃げ切った女子生徒が当時の生徒会役員と一日デートの権利を獲得したらしい。こちらは『褒美』に分類されるのかもしれない。
とりあえず今日はクラスで体育委員から二日目に行われる『体育祭』についての説明後、参加種目を決定する。
クラスの体育委員により配布されたプリントには、開催日や競技内容の詳細が書かれていた。
四季ヶ丘学園の体育祭は『春』『夏』『秋』『冬』の四チームで競い合う伝統がある。
そのチームの分け方はクラス単位で分けるだけなので学年対抗にはならない。私の在籍する二年二組が『夏』ということは、一年二組も三年二組も『夏』ということだ。
チームの分け方は毎年違っているが、基本的に生徒会と風紀が均等にチームに入るよう調整される。なので今回のチーム構成は『春』が一組と四組、『夏』が二組と三組、『秋』が五組と七組、『冬』が六組と八組となっていた。
内分けは『春』に会長と三宮くん、『夏』に風紀委員長と副会長、『秋』に八瀬くんと九瀬くん、『冬』に四宮先輩と五宮双子だ。その文字を見て思わず顔を顰めてしまったのは仕方ない。
同じチームに笑顔で毒づいて暴力を揮う副会長と、くたばって欲しい人物筆頭の風紀のメガネだなんて嫌がらせレベルだ。姫川さんは誰が同じチームでも大喜びだと思うけれど、私にとっては一番最悪な組み合わせだった。
先生の話によると、体育祭のチーム別集会は講堂で行われるらしい。余談だが『春』が体育館、『秋』は視聴覚室、『冬』は多目的室のようだ。チーム毎で顔合わせを兼ねた交流としたり、二日目の体育祭での作戦を練ったりするので有意義で貴重な時間になると感じている生徒も少なくない。
そしてその日の午後。チーム『夏』で代表を務める副会長と風紀委員長により、彼等の立てた『作戦』が語られたのだった――。
◇◇◇
体育祭一日目、交流会の日がついにやってきた。
二日ある体育祭の初日である今日はチーム戦ではなく、学園生徒の親睦会のようなものなので遊びの延長に近い。生徒達もわりと気軽に構えている者が多く、やる気のある者とそうでない者との差がかなり大きく感じられた。もちろん私は後者だ。
交流会は講堂に一度全校生徒を集め、生徒会から詳細説明が行われた約三十分後に開始される。そのため今は講堂への移動指示が出るまで教室で待機している所だった。これは過去の記憶でも同じなので落ち着いて待つことができる。
しかし、すぐにその落ち着きは消え去ってしまった。それは普段通り朝のHR開始を告げる鐘と共に教室に現れた六井先生によるものだった
先生の手にはクラス名簿だけでなく白い真四角の箱もある。ちょうど人の手が入りそうな丸い口が開いており、くじ引きのような印象を受けた。
出席を取り終えた後、先生は苦笑しながら好奇の視線が釘付けになっている箱を叩いてその存在が何なのか答えた。
「これは交流会の準備に必要なものだ。全員この中の物を一つ腕に付けて交流会に参加するように。詳しい説明は講堂で生徒会からする事になっている」
出席番号順に引きに来い、と最後に言った先生の指示通り私達生徒は先ほどの出席確認で名前を呼ばれた順に箱の中身が何かを確認しに行く。
自分の番が回ってくるまで我慢できない者は先に引いた物の周りに集まって、それが何か確認していた。私も絵理がそれを手にして傍に来たので隣から興味深く観察する。
箱から生徒達が引き当てた中身は――……全体的に黒で統一されたデザインのデジタル時計だった。
◇◇◇
交流会の開始前に説明が行われる講堂に、私達は集まっていた。
そこで壇上に立った会長の言葉によると、今年の交流会は私の記憶とは違い、鬼と逃亡者の他に『最重要逃亡者』という新たな役割が設けられていた。
『まず、今年の交流会は新入生全員が『逃亡者』ではないことを告げておく』
静かだった講堂がざわついた。
それもそのはずだ。交流会の内容は『鬼』となる二・三年生が『逃亡者』の新入生を追いかける『鬼ごっこ』なのだから。これは毎年変わらない伝統的なものであったので、まさかその根本的な部分から変えてくるとは思っていなかった。
ざわざわと一気に騒がしくなった生徒達を尻目に、会長は少し不機嫌そうになったが気にせず説明を続けた。それに慌てたのは生徒側の方で、すぐに周りと交わしていた疑問の声を打ち切ってステージ上の会長に集中する。
『交流会で『鬼』と『逃亡者』が存在することは変わりない。だが今回の交流会からは二年や三年も『逃亡者』になり、逆に一年にも『鬼』となってもらう』
どうやら新入生だけが『逃亡者』だという概念は捨て去る必要があるようだ。全学年混合して『鬼』と『逃亡者』を作る傾向に変えたのだろう。
確かに追われるだけでは新入生も面白みがなく、同じく二・三年生も追うだけなのはつまらないかもしれない。
けれど、どうやってその役割を明確にするのだろう。
そう思って私が首を傾げた次のタイミングで、まるで生徒達がそんな疑問を抱くことを予測していたように会長が回答にも取れる説明の続きを告げる。
『配布した時計に三つの飾りが付いているはずだ。今から俺が合図するタイミングでその飾りの一つが一瞬だけ点滅する仕掛けになっている。その点滅した明かりの色で交流会の分担を決める。お前達生徒の役割は全部で三つ。点滅の光が赤であれば役割は『鬼』。光が青であれば『逃亡者』だ。そしてもう一つ……点滅の光が白だった場合は今回から新たに設けられた『最重要逃亡者』となる』
文字表示される部分の下にある飾りはそんな意味があったのか、と会長の話を聞いて思った。
しかしやはり再び首を傾げる結果に繋がってしまったのは仕方のないことだと思う。
聞きなれない『最重要逃亡者』といういかにも嫌な役割を担っていそうな存在に、生徒達は反応した。
『交流会の成績はポイント制だ。『鬼』が『逃亡者』を捕まえることができれば一ポイント。『逃亡者』が『鬼』から制限時間内に逃げ続けることができれば十ポイントだ。このポイントは十を超えた者には主催者側から褒美を与えることになる』
人差し指を一本立てる会長の示しているのは、一ポイントの一なのか十ポイントの十なのかは分からない。
だが今私が危惧しなくてはならないのは新たに設けられた謎の役割だ。『最重要逃亡者』だなんて嫌な呼ばれ方をする存在に、警戒せずにはいられない。
『ここで気になるのは『最重要逃亡者』の存在だろう。その役割になった者は『逃亡者』の中でも特別な者になる。『鬼』が捕まえれば一気に五ポイント入るので、『鬼』が褒美を得るのにかなり有利で重要な者となる。そして『逃亡者』にとっては親玉のような存在なので、交流会が始まって『最重要逃亡者』であることを見破れば一度『鬼』に捕まえられても逃げ切ることが可能な権利を得る』
やはり、厄介な役割を担う存在だ。
『逃亡者』の五人分のポイントが入る存在を『鬼』が狙わないはずもないので、もしそんな役割が当たってしまえば苦労する事が目に見えている。
私は従来通り『鬼』でいたいと強く願いながら、自分の腕に付けられた時計を反対の手で強く上から押さえた。『鬼』になりますように、と願いを込めながら。
そして、最後に会長が言った『見破る』という言葉の意味がよく分からなかったので、それは更に今から詳しい説明があるのだと思って聞く体制を維持し続ける。
じっと期待するように会長を見ていると、やはり生徒に疑問を抱かせるように仕組まれた誘導的な説明が続けられるようだ。
その前に、その役割とやらを明確にするようだけど。
『では今から一度お前達の役割を明らかにする。その後、役割別の詳細説明を副会長が行う予定なので聞き洩らさないようにしろ。自分の役割は周りに役割を知られないよう注意しておけよ』
そう言って、説明を半ば投げ出すようにした会長の隣に副会長が溜息をつきながら隣に並んだ。
恐らく、副会長が説明をするという段取りはなかったのだろう。マイクのスイッチが入っていない状態で何か会長に文句を言う副会長の会話は聞こえなかったが、その呆れたような表情から説明を引き受けたのは何となく分かった。
『会長の指名なので僕がこの後の説明を引き継ぎます。では、役割を明らかにしますので皆さんご自分の時計に注目なさって下さい』
仕方がないといった様子でマイクを持ち、私達に時計を見るよう促した副会長の声は表情と同じで少し呆れた印象を受けた。
『ではお前達の役割を教える。担うべき役割は――……これだ!』
会長が声を上げ合図した瞬間に光った三つの飾りの内、一つが光を灯した。
周りの生徒達が一瞬だけ光った自分の時計を見て歓喜のような、困惑のような声を上げている。
そんな中、私の時計が示した色は――……。
◇◇◇
鬼に分類された親友の絵理とともに、加奈子は交流会を回ることになった。
生徒会のメンバーも参加しているため、ミーハーな絵理の付き添いとして交流会を盛り上げるために一役買っている彼等の有志を見て回る二人。
五宮兄弟が開催するゲーム大会や、会長の開くプチ縁日。
逃亡中の生徒達の悶着に巻き込まれたりと、慌ただしく過ぎていく交流会の中で、加奈子もまた新たな問題に首を突っ込む事になってしまった。
無人の教室で密会する、とある人物。ひょんなことからその現場を目撃することになってしまった加奈子。
果たして、加奈子は無事交流会を何事もなく終えることができるのだろうか?
交流会で渦巻く多くの者の思惑に巻き込まれた加奈子の運命は――……
基本的に四季ヶ丘学園の体育祭は二日で構成されている。
一日目には新入生歓迎会を兼ねた『鬼ごっこ』。逃げる側が新入生で鬼側がそれ以外の生徒となり、制限時間内に逃げ切った者や一定以上の人数を捕まえると主催者側から褒美がもらえるというシステムだ。
ここで注目されるのは主催者が生徒会という部分。つまり生徒会から褒美がもらえるという意味になるので女子生徒達は期待に胸を膨らませている。男子は男子で生徒会なら褒美の内容に期待できると思っている。
また、景品ではなく褒美と称されることにも理由がある。
それは条件を満たした者の希望を可能な限り何でも叶えてくれるという所から『褒美』になったようだ。
昨年は新入生を一定以上捕まえた男子生徒が食堂の一年間無料権利を褒美として望んだ。客観的に見てこれは『景品』だろう。過去には制限時間内で逃げ切った女子生徒が当時の生徒会役員と一日デートの権利を獲得したらしい。こちらは『褒美』に分類されるのかもしれない。
とりあえず今日はクラスで体育委員から二日目に行われる『体育祭』についての説明後、参加種目を決定する。
クラスの体育委員により配布されたプリントには、開催日や競技内容の詳細が書かれていた。
四季ヶ丘学園の体育祭は『春』『夏』『秋』『冬』の四チームで競い合う伝統がある。
そのチームの分け方はクラス単位で分けるだけなので学年対抗にはならない。私の在籍する二年二組が『夏』ということは、一年二組も三年二組も『夏』ということだ。
チームの分け方は毎年違っているが、基本的に生徒会と風紀が均等にチームに入るよう調整される。なので今回のチーム構成は『春』が一組と四組、『夏』が二組と三組、『秋』が五組と七組、『冬』が六組と八組となっていた。
内分けは『春』に会長と三宮くん、『夏』に風紀委員長と副会長、『秋』に八瀬くんと九瀬くん、『冬』に四宮先輩と五宮双子だ。その文字を見て思わず顔を顰めてしまったのは仕方ない。
同じチームに笑顔で毒づいて暴力を揮う副会長と、くたばって欲しい人物筆頭の風紀のメガネだなんて嫌がらせレベルだ。姫川さんは誰が同じチームでも大喜びだと思うけれど、私にとっては一番最悪な組み合わせだった。
先生の話によると、体育祭のチーム別集会は講堂で行われるらしい。余談だが『春』が体育館、『秋』は視聴覚室、『冬』は多目的室のようだ。チーム毎で顔合わせを兼ねた交流としたり、二日目の体育祭での作戦を練ったりするので有意義で貴重な時間になると感じている生徒も少なくない。
そしてその日の午後。チーム『夏』で代表を務める副会長と風紀委員長により、彼等の立てた『作戦』が語られたのだった――。
◇◇◇
体育祭一日目、交流会の日がついにやってきた。
二日ある体育祭の初日である今日はチーム戦ではなく、学園生徒の親睦会のようなものなので遊びの延長に近い。生徒達もわりと気軽に構えている者が多く、やる気のある者とそうでない者との差がかなり大きく感じられた。もちろん私は後者だ。
交流会は講堂に一度全校生徒を集め、生徒会から詳細説明が行われた約三十分後に開始される。そのため今は講堂への移動指示が出るまで教室で待機している所だった。これは過去の記憶でも同じなので落ち着いて待つことができる。
しかし、すぐにその落ち着きは消え去ってしまった。それは普段通り朝のHR開始を告げる鐘と共に教室に現れた六井先生によるものだった
先生の手にはクラス名簿だけでなく白い真四角の箱もある。ちょうど人の手が入りそうな丸い口が開いており、くじ引きのような印象を受けた。
出席を取り終えた後、先生は苦笑しながら好奇の視線が釘付けになっている箱を叩いてその存在が何なのか答えた。
「これは交流会の準備に必要なものだ。全員この中の物を一つ腕に付けて交流会に参加するように。詳しい説明は講堂で生徒会からする事になっている」
出席番号順に引きに来い、と最後に言った先生の指示通り私達生徒は先ほどの出席確認で名前を呼ばれた順に箱の中身が何かを確認しに行く。
自分の番が回ってくるまで我慢できない者は先に引いた物の周りに集まって、それが何か確認していた。私も絵理がそれを手にして傍に来たので隣から興味深く観察する。
箱から生徒達が引き当てた中身は――……全体的に黒で統一されたデザインのデジタル時計だった。
◇◇◇
交流会の開始前に説明が行われる講堂に、私達は集まっていた。
そこで壇上に立った会長の言葉によると、今年の交流会は私の記憶とは違い、鬼と逃亡者の他に『最重要逃亡者』という新たな役割が設けられていた。
『まず、今年の交流会は新入生全員が『逃亡者』ではないことを告げておく』
静かだった講堂がざわついた。
それもそのはずだ。交流会の内容は『鬼』となる二・三年生が『逃亡者』の新入生を追いかける『鬼ごっこ』なのだから。これは毎年変わらない伝統的なものであったので、まさかその根本的な部分から変えてくるとは思っていなかった。
ざわざわと一気に騒がしくなった生徒達を尻目に、会長は少し不機嫌そうになったが気にせず説明を続けた。それに慌てたのは生徒側の方で、すぐに周りと交わしていた疑問の声を打ち切ってステージ上の会長に集中する。
『交流会で『鬼』と『逃亡者』が存在することは変わりない。だが今回の交流会からは二年や三年も『逃亡者』になり、逆に一年にも『鬼』となってもらう』
どうやら新入生だけが『逃亡者』だという概念は捨て去る必要があるようだ。全学年混合して『鬼』と『逃亡者』を作る傾向に変えたのだろう。
確かに追われるだけでは新入生も面白みがなく、同じく二・三年生も追うだけなのはつまらないかもしれない。
けれど、どうやってその役割を明確にするのだろう。
そう思って私が首を傾げた次のタイミングで、まるで生徒達がそんな疑問を抱くことを予測していたように会長が回答にも取れる説明の続きを告げる。
『配布した時計に三つの飾りが付いているはずだ。今から俺が合図するタイミングでその飾りの一つが一瞬だけ点滅する仕掛けになっている。その点滅した明かりの色で交流会の分担を決める。お前達生徒の役割は全部で三つ。点滅の光が赤であれば役割は『鬼』。光が青であれば『逃亡者』だ。そしてもう一つ……点滅の光が白だった場合は今回から新たに設けられた『最重要逃亡者』となる』
文字表示される部分の下にある飾りはそんな意味があったのか、と会長の話を聞いて思った。
しかしやはり再び首を傾げる結果に繋がってしまったのは仕方のないことだと思う。
聞きなれない『最重要逃亡者』といういかにも嫌な役割を担っていそうな存在に、生徒達は反応した。
『交流会の成績はポイント制だ。『鬼』が『逃亡者』を捕まえることができれば一ポイント。『逃亡者』が『鬼』から制限時間内に逃げ続けることができれば十ポイントだ。このポイントは十を超えた者には主催者側から褒美を与えることになる』
人差し指を一本立てる会長の示しているのは、一ポイントの一なのか十ポイントの十なのかは分からない。
だが今私が危惧しなくてはならないのは新たに設けられた謎の役割だ。『最重要逃亡者』だなんて嫌な呼ばれ方をする存在に、警戒せずにはいられない。
『ここで気になるのは『最重要逃亡者』の存在だろう。その役割になった者は『逃亡者』の中でも特別な者になる。『鬼』が捕まえれば一気に五ポイント入るので、『鬼』が褒美を得るのにかなり有利で重要な者となる。そして『逃亡者』にとっては親玉のような存在なので、交流会が始まって『最重要逃亡者』であることを見破れば一度『鬼』に捕まえられても逃げ切ることが可能な権利を得る』
やはり、厄介な役割を担う存在だ。
『逃亡者』の五人分のポイントが入る存在を『鬼』が狙わないはずもないので、もしそんな役割が当たってしまえば苦労する事が目に見えている。
私は従来通り『鬼』でいたいと強く願いながら、自分の腕に付けられた時計を反対の手で強く上から押さえた。『鬼』になりますように、と願いを込めながら。
そして、最後に会長が言った『見破る』という言葉の意味がよく分からなかったので、それは更に今から詳しい説明があるのだと思って聞く体制を維持し続ける。
じっと期待するように会長を見ていると、やはり生徒に疑問を抱かせるように仕組まれた誘導的な説明が続けられるようだ。
その前に、その役割とやらを明確にするようだけど。
『では今から一度お前達の役割を明らかにする。その後、役割別の詳細説明を副会長が行う予定なので聞き洩らさないようにしろ。自分の役割は周りに役割を知られないよう注意しておけよ』
そう言って、説明を半ば投げ出すようにした会長の隣に副会長が溜息をつきながら隣に並んだ。
恐らく、副会長が説明をするという段取りはなかったのだろう。マイクのスイッチが入っていない状態で何か会長に文句を言う副会長の会話は聞こえなかったが、その呆れたような表情から説明を引き受けたのは何となく分かった。
『会長の指名なので僕がこの後の説明を引き継ぎます。では、役割を明らかにしますので皆さんご自分の時計に注目なさって下さい』
仕方がないといった様子でマイクを持ち、私達に時計を見るよう促した副会長の声は表情と同じで少し呆れた印象を受けた。
『ではお前達の役割を教える。担うべき役割は――……これだ!』
会長が声を上げ合図した瞬間に光った三つの飾りの内、一つが光を灯した。
周りの生徒達が一瞬だけ光った自分の時計を見て歓喜のような、困惑のような声を上げている。
そんな中、私の時計が示した色は――……。
◇◇◇
鬼に分類された親友の絵理とともに、加奈子は交流会を回ることになった。
生徒会のメンバーも参加しているため、ミーハーな絵理の付き添いとして交流会を盛り上げるために一役買っている彼等の有志を見て回る二人。
五宮兄弟が開催するゲーム大会や、会長の開くプチ縁日。
逃亡中の生徒達の悶着に巻き込まれたりと、慌ただしく過ぎていく交流会の中で、加奈子もまた新たな問題に首を突っ込む事になってしまった。
無人の教室で密会する、とある人物。ひょんなことからその現場を目撃することになってしまった加奈子。
果たして、加奈子は無事交流会を何事もなく終えることができるのだろうか?
交流会で渦巻く多くの者の思惑に巻き込まれた加奈子の運命は――……
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