忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ジュディハピ! ダイジェスト③

ダイジェスト(歪み始めた日常~生徒会室にて.Ⅱ)
◆◆◆

 突然樹里先輩と連絡が取れなくなってしまった携帯電話。
 一応、実験の予定通り平日である翌日の朝、樹里先輩からの連絡を待ってみた。
 しかし、携帯が着信を告げる気配などなく、最悪なことばかりが私の脳裏に過る。

 もし、昼休みも放課後も先輩から連絡が来なければ?
 もし、このまま先輩と二度と連絡を取れなくなってしまったら?
 もし、姫川さんが朝のHRで転校生として紹介されたら?
 もし、姫川さんにまた学園中の男達が夢中になってしまったら?

 嫌なことを次々と考えるのは良くないことだと理解している。
 でも、頼る人を失ってしまうかもしれないという不安と再び独りぼっちになって最悪な世界を繰り返すという絶望が私の中で蠢く。
 それは姿形のない恐怖と呼ばれる感情で、ちっぽけな私を簡単に支配してしまう恐ろしいモノだ。
 その一方で、前向きにならなくてはと思い直す思考がわずかに立ち向かう勇気を与えてくれる。
 そうだ、まだ始まったばかりで何も分かっていないじゃないか。と私は精一杯の勇気を振り絞り、ぎゅっと携帯を胸の前で強く握りながら押し寄せる不安に耐えるよう背を丸めた。

「また、泣いているのか……?」

 いつかと同じように、戸惑いと優しさが入り混じった声が私の耳に届いた。
 隠し教室という秘密の場所を知っている人物は私と樹里先輩以外には一人しかいない。

 泣き出しそうな私を『泣き虫』と言う四宮先輩は、苦笑しながら私の頭や身体に優しく触れて励ましの言葉を口にしてくれる。
 姫川さんが転校してきた時に、確実に目標ターゲットとされるこの人の優しさが、姫川さんだけのものになって欲しくないと思った。
 だからだろうか。こんな馬鹿な質問をしてしまったのは。

「四宮先輩も、可愛くて綺麗な女の子の方が好きですか?」

私の問いへの答えを、たっぷり時間をかけて返してくれた四宮先輩の目は何故か他の場所へ逃げていた。

「お、俺は一途な子が好き、かな?」
「はあ。つまり容姿は二の次ということでしょうか」
「確かに容姿に拘りなんてないが……えーと、何でそんな事を質問したんだ?」
「綺麗で可愛い子に言い寄られると、誰もがその子のことを好きになるのではないかと心配になったんです」
「……平田は俺"も"と言ったが、それは電話の先輩が関係しているのか?」

 樹里先輩が関係あるのか? そんなの、関係あるに決まっている。
 姫川さんが再び自分の好き勝手に遊んだ一年を終えたとすれば、次の一年も樹里先輩は居ないだろう。
 姫川さんにループを終わらせてもらえるよう、必死に足掻く必要がある。姫川さんの強みになっている、姫川さんに魅了されている学園の上層部を何とかしなくてはならないのだ。
 だから、彼等が姫川さんの虜になっては困るのだ。もちろん、目の前にいる四宮宰先輩も。

 素直に首を縦に振れば、強く握られていた四宮先輩の手の力が緩んだ。
 このまま離して欲しいと思ったので私の方から自分側へ手を引いた。でも先輩の手は解けなかった。

「可愛いって、人それぞれだと俺は思う」
「みんな最初はそう言います。でも、最終的には綺麗で可愛いあの人の所へ行ってしまうんです」
「それなら平田はどうするんだ? そのままにして諦めるのか?」

 四宮先輩のその言葉に、前の周で味わった虚無感がじんわりと胸の中に広がった。
 姫川さんに敗北して、滅茶苦茶になった学園と悔し涙を流す文化委員の女子達に、その生徒達に泣きそうな顔をしながら謝罪する樹里先輩。
 この隠し教室でひっそりと泣くことしかできなかった役立たずな私の姿が鮮明に思い出される。

 四宮先輩の問い掛けを否定して、今度は私からそのコバルトブルーの瞳を強く見つめた。

「だけど諦めません。私が諦めることだけは絶対に許されないんです」



◆◆◆

 四宮宰先輩と会話したことで志を強く抱きなおした私は、樹里先輩と連絡が取れなくても自分で情報を集めようと決めた。

 そんな最中さなか、予期せぬ三宮穂高との二度目の接触をしてしまった。

「しーっ……静かに加奈子ちゃん。騒いだらその可愛いお口にチューしちゃうよ?」

 なんて、変態な発言をした三宮くんに力の限り抵抗して撃退するということもあったけれど、生徒会の近況や、姫川さんの転校時期も特定することができたので利益は大きい。
 それと同じくらい、自分の携帯番号とメールアドレスを代償としてしまったことは大きかったけれど、何とか樹里先輩と再び連絡を取り合う事ができるようになった。

 まだまだ謎は多いけれど、姫川さんが私達が考えている時期より少し早く転校してくることや、誰を狙って行動を起こすかを予あらかじめ推測できることにより、今までより有利に事を運ぶことができそうだと、未だ見ぬ敵(姫川さん)に思いを馳せたのだった――



◇◇◇


 こうして、四季ヶ丘学園という狂った愛の女神が作り出した箱庭を舞台に、一年が再び繰り返された。
 一人は現愛の女神が作り出したという白い空間に隔離された状態で。
 一人は元愛の女神の加護を受け、数日後に早めの転校を控えながら。
 そして一人は、敬愛する者と彼女が大切にした学園を元の状態に戻すため、自ら舞台裏から一歩を踏み出した。
 先の一年は学園を壊し、かつて愛した者の絆さえも崩壊させた者の勝利で幕を閉じた。
しかし再び巡り始めた一年には、崩壊させた者が予想できない変化が多く生じることになる。

 一年が半永久的に繰り返される、狂った箱庭がどうなるかは誰にも分からない。
 箱庭を想像した元愛の女神も、箱庭に介入した現愛の女神も。
 今はただ、少女達が紡ぐ物語の行く末を見守るだけだった――。
PR

この記事にコメントする

お名前
タイトル
メール
URL
コメント
絵文字
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード